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よるのこうず

夜の構図

織田 作之助

「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页

青空文庫

娘の方には伝票がなかった。ボーイが二人連れだと思ったのであろう。

信吉は二人の勘定を払った。

「あら、あたしが……」

「いや、面倒ですから一緒に……」

「御馳走さまでした」

信吉がロビイのソファへ行くと、娘も随いて来て並んで坐ったが、いかにもそれが自然に見えたのは、勘定のことがあったからであろう。

ソファへは日が射し込んで来た。娘はしきりにハンカチを使った。

「暑いですね」

「お部屋へ行ってお話しましょうか」

信吉は思わず娘の顔を見た。信吉の方が赧くなった。信吉はあわてて言った。

「涼しいんですか、あなたのお部屋」

「とっても……」

「でも、女の方の部屋へ行くのはどうも……」

「じゃ、あなたのお部屋へ参りますわ」

信吉はふと胸が騒いだ。

「僕の部屋、暑いですよ。しかし、ここよりはましかな」

照れた早口で言って立ち上り、エレヴェーターに乗って、

「四時半までに行かなくちゃならないでしょう?」

信吉は気の弱い声を出した。

「でも、四時半までお話できますわ」

娘は腕時計を見た。三時であった。

「あッ、しまった、三時、三五二号室は到頭あの男にとられてしまったか」

と、信吉は呟いた。