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よるのこうず
夜の構図
織田 作之助
「婦人画報」1946(昭和21)年5月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,068 字 · 125 页
薄井も自分のマッチで煙草に火をつけた。そして暫く黙黙として、自尊心と自尊心が衝突する火花を散らしていたが、やがて薄井は口を切った。
「今日の新聞見た――?」
「いえ、まだです」
信吉は蜂谷重吉の顔を想い出した。
「批評出てるよ、君の芝居の……」
薄井は三十前後だが、芝居関係の人間には敬語を用いたことはなかった。
「見なくてよかったですな」
信吉は先手を打って置いた。
「まア、けなして置いたがね」
薄井はにやりとした。
「ひどいわ。薄井さん。いい芝居じゃないの」
信吉は冴子が自分の芝居をかばってくれたのを喜ぶ前に、薄井にそんな馴馴しい口を利いている冴子を不愉快に思った。
「しかし、あの芝居には人の心を打つものがない。真山青果の芝居は、とにかく人の心を打つからね。モラルがある」
「そうです。しかし、僕はモラルのない芝居を書こうとしているんです」
「なるほど、しかし、普遍的な人生や、偉大な思想は感じられないからね。君の芝居は……」
「普遍的な人生や、大きな思想を感ずる芝居とはどんな芝居ですか」
「外国のいい芝居はみんなそうだよ。例えば――」
薄井は二三の片仮名の名前を挙げた。