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がくもんのすすめ
学問のすすめ
福沢 諭吉
「学問のすすめ」1872(明治5)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 87,080 字 · 170 页
ただしその窮とは困窮、貧窮等の窮にあらず、人の言路を塞ぎ、人の業作を妨ぐる等のごとく、人類天然の働きを窮せしむることなり。貧窮、困窮をもって怨望の源とせば、天下の貧民は悉皆不平を訴え、富貴はあたかも怨みの府にして、人間の交際は一日も保つべからざるはずなれども、事実においてけっして然らず、いかに貧賤なる者にても、その貧にして賤しき所以の原因を知り、その原因の己が身より生じたることを了解すれば、けっしてみだりに他人を怨望するものにあらず。その証拠はことさらに掲示するに及ばず、今日世界中に貧富・貴賤の差ありて、よく人間の交際を保つを見て、明らかにこれを知るべし。ゆえにいわく、富貴は怨みの府にあらず、貧賤は不平の源にあらざるなり。
これによりて考うれば怨望は貧賤によりて生ずるものにあらず。ただ人類天然の働きを塞ぎて、禍福の来去みな偶然に係るべき地位においてはなはだしく流行するのみ。昔孔子が「女子と小人とは近づけ難し、さてさて困り入りたることかな」とて歎息したることあり。今をもって考うるに、これ夫子みずから事を起こしてみずからその弊害を述べたるものと言うべし。