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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

薄闇の中とはいえ、接近しているので顔容が分らぬ程ではない。彼は怪物の顔を見た。はっきりとその素顔を見たのだ。

一目見るや否や、小池助手の口から、何とも云えぬ恐ろしい叫び声がほとばしった。その調子には、極度の驚きと、何かしら世にも悲痛な響きが籠っていた。

「ウヌ、俺の顔を見たな」

黒い怪物がうめくように云って、組みしかれたまま、クネクネと身体を動かしたかと思うと、闇の中にパッと青い光が閃めいて、バクッと物を裂くような音がした。

それと同時に、幽霊の胸から、真赤な血のりがポトポトと滴り落ちていた。彼は顔の前に垂れ下った長い髪の毛を振り乱して、ウーンとのけぞったが、そのまま縡れて、パッタリうしろに倒れてしまった。

組みしかれていた黒い怪物は、引裂かれた黒布を元通り顔の前に垂れると、ゆっくりと起き上った。右手には今火を吐いたばかりの小型のピストルを握っている。

「クッ、クッ、クッ……」

彼は又あの奇妙な笑い声を立てた。そして、可哀想な小池助手の死体を踏み越え、素早く竹藪の向うに姿を隠してしまった。

それと引違いに、反対の方角から、二人の小屋の者が、息せききって駈けつけて来た。