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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
博士はそこまで云って、ジロジロと辺りを見廻し、椅子を引き寄せて、川手氏に近づき、その耳に口をつけんばかりにして、一層声を低め、殆んど聞き取れぬ程に囁くのであった。
「あなたの替玉を作るのですよ。影武者ですね、丁度持って来いの人物があるのです。相当の報酬を出して下されば、命を的に引受けてもいいという男があるのです。柔道三段という豪のものですよ。その男をこのお邸へ、あなたの身代りに置いて、謂わば囮にする訳です。そして、近づいて来る賊を待伏せしようというのです」
「そんな男が本当にあるのですか」
川手氏は少し大人げないという面持で、気の進まぬ調子であった。
「不思議とあなたにそっくりなのです。マア一度会ってごらんなされば分ります。うまくやれば召使の方達も、替玉とは気がつかないかも知れません」
「それにしても、わしが身を隠す場所というのが、第一、問題じゃありませんか」
「イヤ、それも心当りがあるのです。山梨県の片田舎に、今丁度売りに出ている妙な一軒家があるのです。ある守銭奴のような老人が、盗難を恐れる余り、そんな妙な家を建てたのですが、全体が土蔵造りで、窓にも縁側にもすっかり鉄板張りの戸がついていて、その上に城郭のような高い土塀を囲らし、土塀の外にはちょっとした堀があって、跳橋まで懸っているという、まるで戦国時代の土豪