轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

同行した宗像博士は、一晩そこに泊って、川手氏の気持の落ちつくのを見届け、老人夫婦にその世話を懇に頼んだ上、直ちに東京に引返した。復讐鬼は東京にいるのだ。そして、今頃は影武者とも知らず、贋川手氏の身辺に悪魔の触手を伸ばしているに違いない。博士は、その見えざる敵と、愈々最後の勝負を決するために、一日もぐずぐずしている訳には行かなかった。

川手氏が城郭の不思議な掛人となってから、四五日は何事もなく経過した。陽春の山住いは憂いの身にも快かった。土蔵造りの白壁も明るく、それを取りまく雑木林の枝々には、黄ばんだ若芽のふくらみも暖かく、吊橋の下の小川は軽やかにせせらぎ、樹間に呼び交う鳥の声も、浮世離れてのどかであった。

三度の食膳には、老夫婦が心尽しの、新鮮な山の珍味が列べられ、退屈すれば、うらうらと日ざしの暖かい庭の散歩、夜ともなれば、老夫婦の語る山里の物珍らしい物語、忘れようとて忘れられぬ悲しみを持つ川手氏も、環境の激変に心もなごみ、時には、何か保養の旅にでも出ているような気分になることもあった。

ところが、山住いの物珍らしさに、だんだん慣れて来るにつれて、川手氏は身辺に何となく気がかりな空気を感じ始めた。