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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

二人とも寝入っているところを叩き起され、いきなり縛りつけられたらしく、ついその前に乱れた夜具が二つ敷いたままになっている。

縛られてうなだれた二人の前に、黒っぽい袷の裾を高々とはしおり、毛むくじゃらの素足を丸出しにした四十前後と見える大男が、黒布ですっぽりと頬被りをして、右手にドキドキ光る九寸五分を持ち、夫婦のものを脅迫している体である。

その異様の光景を、高い竹筒の台のついた丸火屋の石油ランプが、薄暗く照らし出している有様は、どう見ても現代の光景ではない。室内の調度といい、人物の服装といい、明治時代の感じである。どこかへ姿を隠した、さい前の幼児が、やはり明治時代の服装をしていたことを思い合せると、一夜の内に時間が逆転して、三四十年も昔の世界が、突如として眼前に現われたとしか考えられなかった。

山の魑魅魍魎のあやかしであろうか。それとも狐狸の類のいたずらであろうか。だが、現代にそんな草双紙めいた現象があり得ようとも思われなかった。

頬被りをした強盗らしい男は、いきなり手にした短刀の刃で、美しい妻女の頬を、ピタピタと叩き始めた。

「強情を云わずと、金庫の鍵を渡さねえか。