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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
「若しやあれでは?」
と思われるものが一二ないではなかったけれど、それらの相手は皆死んでしまっているし、子孫とても残っていないことが分っていた。いくら考えても脅迫者の素性が分らぬだけに、一層不気味であった。前半生にいじめ抜いた相手が、怨霊となって彼の身辺にさまよっているような、何とも云えぬ恐怖を感じないではいられなかった。
川手氏は遂に堪らなくなって、このことを警視庁に訴え出た。だが警視庁では、所轄警察署へよく話して置くからというような返事をしたまま、一向取合ってくれないので、次には民間探偵を物色し、先ず明智小五郎の事務所へ使を出したが、明智氏はある重大犯罪事件の為に、朝鮮に出張中で、急に帰らないという返事であった。そこで、今度は明智探偵と並び称せられる宗像博士に犯人捜査を依頼したところ、博士の助手の木島という若い探偵が訪ねて来て、一伍一什を聞き取った上、捜査に着手したのであった。
それから十日余りの昨夜、川手氏は突然中村捜査係長の訪問を受け、宗像探偵事務所の木島助手変死の次第を聞かされ、今更のように震え上った。
そして、その夜は三名の私服刑事が、徹宵邸の内外の見張りをしてくれることになったが、しかし、この警視庁の好意はもう手おくれであった。