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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
何とやら腑に落ちぬことが多くて、屡々不審を抱くこともあったが、しかし父がそれ程の極悪非道を行っていようとは夢にも知らなかった。
「川手、何をぼんやり考えているのだ。恐ろしさに気が遠くなったのか、それとも何か腑に落ちぬことでもあるというのか」
囁き声がもどかしげに聞えて来た。
「腑に落ちぬ」
川手氏は猛然として、大勇猛心を奮い起し、いきなり怒鳴り返した。
「俺は父の罪を知らぬのだ。今聞くのが初めてだ。証拠を見せろ。俺は信じることが出来ない」
「ハハハハ、証拠か。それは、この俺が、山本始が、四十年を費して貴様に復讐を企てたことが何よりの証拠ではないか。ちっとやそっとの恨みで、人間がこれ程の辛苦に堪えられると思うのか」
「今のは、お芝居をして見せたのだな」
「そうだ。貴様に十分思い知らせる為に、多額の費用を使って地底演劇をやって見せたのだ。あの無残極まる貴様の親父の所業を目のあたり見せたら、いくらぼんやり者の貴様にでも、俺のやり場のない無念さを、悟らせることが出来るだろうと考えたからだ。口で話した位で、あの残虐が分るものではない。
俺は子供心にも、あの父の断末魔の苦しみと、血の海にもがき廻った両親の苦悶のさまが、目の底に焼きついて、数十年後の今も、昨日のことのようにまざまざと思い出されるのだ。