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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
錫の小函
そして、穴を埋め終ると、その柔かい土の上で、足を揃えて地均しを始めた。
足拍子も面白く、やがて、男女二いろの物狂わしい笑い声さえ加わって、地上に立てたほの暗い蝋燭の光の中に、二つの影法師は、まるで楽しい舞踏ででもあるように、いつまでもいつまでも、地均しの踊りを踊り続けるのであった。
錫の小函
お話は一転して東京に移る。
あの無残な川手氏の生体埋葬が行われた翌日の夜、隅田川にボート遊びをしていた若い男女が、世にも不思議な拾いものをした。
男は丸の内のある会社に勤めている平凡な下級社員、女は浅草のあるカフェーの女給であったが、丁度土曜日のこと、まだ季節には早いけれど、川風が寒いという程ではなく、闇の中で、たった二人で話をするのには、これに限るという思いつきから、もう店開きをした貸ボートを借りて、人目離れた川の真中を漕ぎ廻っていた。
やがて十時であった。
季節でもないこの夜更けに、ボート遊びをしているような物好きもなく、暗い川面には、彼らの外に貸ボートの赤い行燈は、一つも見当らなかった。
彼らはその淋しさを、却ってよい事にして、楽しい語らいの種も尽きず、ゆっくりと櫂を操りながら、今吾妻橋の下を抜けようとした時であった。