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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

それは石鹸箱程の大きさのもので、新聞紙で丁寧に包み、上から十文字に細い紐で括ってあった。

「あけて見ようか」

男は女の顔を眺めて、冗談らしく云った。

「汚いわ、捨てておしまいなさい」

女が顔をしかめるのを、意地悪くニヤニヤして、

「だが、若しこの中に貴重なものが入っていたら、勿体ないからね。何だかいやに重いぜ。金属の箱らしいぜ。宝石入れじゃないかな。誰かが盗んだけれど、持っているのが恐ろしくなって、川の中へ捨てたというようなことかも知れないぜ。よくある奴だ」

男は多分に猟奇の趣味を持っていた。

「慾ばっている! そんなお話みたいなことがあるもんですか」

「だが、つまらないものを、こんなに丁寧に包んだり縛ったりする奴はないぜ。兎も角開けて見よう。まさか爆弾じゃあるまい。君、この行燈を持っていてくれよ」

男の酔狂を笑いながら、しかし、女も満更ら好奇心がない訳でなく、蝋燭のついた行燈を取って、男の手の上にさしつけてやるのであった。

男はその新聞包をボートの真中の腰かけ板の上にのせ、その上にかがみ込んで、注意深く紐を解き始めた。

「いやに沢山結び玉を拵えやがったな」