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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

それを見ると、女が顔色を変えたのに引かえ、男の好奇心は一入激しくなりまさった。

彼はもう無言であった。何かしら重大な事件の中にまき込まれたという興奮のために、目の色が変っていた。彼は咄嗟の間に、嘗て愛読した探偵小説の中の、それに似た場面をあれこれと思い浮べていた。

ほの暗い行燈の下で、血染のハンカチが注意深く開かれて行った。

「何だか包んである」

男の声は、囁くように低かった。顔をくっつけ合った二人には、お互の鼻息が、異様に耳についた。

「怖いわ。よしましょう。捨てておしまいなさいな。でなければお巡りさんに渡した方がいいわ」

だが、男はもうハンカチを拡げてしまっていた。真赤に染まったハンカチの上に、何かしら細長いものが、鈎なりに曲って横わっていた。

「指だよ」

男が鼻息の間から喉のつまった声で囁いた。

「マア!」

女はもうお喋りをする元気もなく、行燈をそこに置いたまま、顔をそむけてしまった。

「女の指だよ。……根元から切取ってある」

男が憑かれた人のように、不気味な囁きをつづけた。

「指を切取って、川の中へ捨てなければならないなんて、これは一体どうした訳だろう。