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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「オヤッ、この指紋は……」

流石の警部も、今度こそは顔色を変えないではいられなかった。

「見覚えがありましょう」

「見覚えがあるどころか。渦巻が三つ重なっているじゃありませんか。三重渦状紋だ。例の奴とそっくりです。これは一体……」

「僕は今、その隆線の数も算えて見ましたが、例の殺人鬼の指紋と寸分違いません」

「すると……」

「すると、この指は犯人の手から斬り取られたのです。恐らく犯人自身が斬り取って、隅田川の底へ沈めようとしたのでしょう。重い錫の小函を使ったのも、その目的に違いありません」

「なぜです。あいつは、なぜ自分の指を斬り取ったりしたのです」

「それは容易に想像がつくじゃありませんか。考えてごらんなさい。犯人はこの指さえなくしてしまえば全く安全なのです。我々が犯人について知っているのは、ただこの三重渦状紋だけです。これさえ抹殺してしまえば、犯人を捉える手掛りが皆無になる訳ですからね。

犯人は川手氏を脅かし苦しめる為めに、この怪指紋を実に巧みに利用しましたが、その大切な武器を惜しげもなく切り捨てたところを見ると、もう指紋そのものが不要になった、つまり復讐の目的を完全に果したとしか考えられないじゃありませんか。