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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
しかし、これ程の復讐を受ける覚えはないのです。そんな相手は全く心当りがないのです」
川手氏は、博士の疑い深い質問に、少し怒りをあらわして答えた。
「ですがね、恨みという奴は、恨まれる方では左程に思わなくても、恨む側には何層倍も強く感じられる場合が、往々あるものですからね」
「なる程、そういうこともあるでしょうね。さすが御商売柄、犯罪者の気持はよく御承知でいらっしゃる。しかし、わたしには、どう考えて見ても、そんな心当りはありませんね」
川手氏は益々不快らしく云い放った。
「あなたの方にお心当りがないとしますと、例の指紋が、今のところ、唯一の手掛りですね。実は昨夜のうちに、警視庁の指紋原紙を十分調べさせたのですが、十五年勤続の指紋主任も、三重の渦状紋なんて見たことも聞いたこともない。指紋原紙の内には、無論そんなものはないということでした」
「化け物だ」
宗像博士が、何か意味ありげに、低い声で呟いた。それを聞くと、川手氏は脅えたように、キョロキョロとあたりを見廻した。さりげなく装っているけれど、心の底では、何者か思い当る人物があるらしく見える。
「中村さん、宗像さんも、何とかして娘を取戻して下さる訳には行かんでしょうか。