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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
明智小五郎
明智小五郎は、年こそ若かったけれど、私立探偵としては、宗像博士の先輩であり、随ってその手腕も、博士をしのぐものがあった。現に川手庄太郎氏も、この物語の初めにも記した通り、この事件をまず明智探偵に依頼しようとしたが、丁度旅行中で、いつ帰京するとも判らなかったので、それではと新進の宗像博士を選んだのであった。
明智は三重渦巻指紋の事件が起る少し前、政府からある国事犯捜査の依頼を受けて、朝鮮に出張し、京城を中心として半島の各地を飛び廻っていた。そして、首尾よくその目的を果し、今日帰京したばかりのところであった。
中村捜査係長は、明智から帰京の通知を受けると、何はおいても、今度の奇怪な殺人事件について、彼の意見を聞いて見たいと思った。係長は明智とは宗像博士よりもずっと早くからの知合で、ごくうちとけた交りを結んでいた。
予め電話があったので、明智は事務所の応接室に、久し振りの友達を待ち受けていた。
「あちらの仕事は大変うまく行ったそうだね。お目出度う」
中村警部は明智の顔を見ると、先ずその喜びを述べるのであった。
「有難う。つい今し方まで陸軍関係の晩餐会に呼ばれていたんだが、恐ろしく歓待してくれてね、なんだか英雄にでもなったような気持がしているんだよ。