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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「宗像さんですか。中村です。丁度明智君を訪ねていましてね、捜査課から電話の知らせを受けたものですから、明智君と一緒に駈けつけたのですよ。警視庁からも間もなくやって来るでしょう」

闇の中で、中村警部が挨拶すると、宗像博士は、明智と聞いて一歩前に進み出でた。

「オオ、明智さん、お帰りになった事は新聞で承知していました。あなたのお留守中に、僕は途方もない難事件を引受けさせられてしまいましてね。やっと犯人を追いつめたかと思えば、ごらん下さい、この始末です」

博士は弁解でもするような調子で云いながら、社殿の床下へ懐中電燈の光を向けた。

「アッ、これは……」

中村警部が、驚きの余り、思わず叫び声を立てた。

それも無理ではない。社殿の床下、懐中電燈の丸い光の中に、まざまざと浮き出していたのは、無残な生人形のような、血みどろの死骸であった。

黒い背広の胸が開いて、その白いシャツが真赤に染まり、血の塊が電光を受けて、ギラギラと毒々しく光っていた。ソフト帽が脱げて、長い黒髪が乱れ、土気色になった女の唇から顎にかけて、一筋二筋、赤い毛糸のような血が流れていた。女の右手には五寸程の白鞘の短刀が握られ、その刃先にベットリ血のりがついている。