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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
まさか短刀など隠していようとは思いも及ばなかったのです」
宗像博士は大切な犯人を殺してしまった失望に、説明もしどろもどろであった。
成程、死人の身体には、解けた細紐が幾重にも纒いつき、その端が側の柱に括りつけてあった。宗像博士が、常に身辺を離さぬ、絹糸製の丈夫な細紐である。
「どうしてこれを解くことが出来たんだろう。まさか縛り方が悪かったのではないでしょうね」
明智は柱の側にしゃがんで、その細紐を調べながら、半ば独言のように呟いた。
「僕もそれを不思議に思っているのです。捕繩のかけ方ぐらいは心得ているつもりですが」
博士も不審に耐えぬ面持だ。
「宗像さん、この女は自殺したのではないかも知れませんね」
明智がふと何かに気附いたらしく、妙なことを云い出した。
「エッ、自殺でないというと?」
宗像博士も中村警部も、意外な言葉に、明智の顔を覗くようにして、聞き返す。
「他殺ではないかと思うのです。誰かがこの女の心臓を抉って、その短刀を死人の手に握らせた上、自殺と見せかける為めに、あとから繩を解いて置いたとも考えられますからね」
「しかし、誰が何の為めにそんな真似をしたのでしょう。