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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
犯人に恨みを含むものが、この森の中に忍んでいたとでもいうのですか」
宗像博士は腑に落ちぬ様子で、明智の軽率な判断をなじるように云った。
「イヤ、必ずしも恨みを含む者とは限りません。宗像さん、僕はさい前、中村君から、事件の経過を詳しく聞いたのですが、この事件には、男装の女らしい小柄な犯人の外に、もう一人、一方の目に眼帯をあてた大男がいるというではありませんか。
犯罪者が一身の安全を計る為めに、仲間を殺すというのは、例のないことではありません。僕は何だか、その辺の闇の中に、まだ眼帯の大男が身を潜めて、僕らの話を聞いているような気がするのですよ。つい身近にそいつの気配を感じるのですよ」
明智は闇の中の宗像博士の側に近よって、そのモーニングの腕を、指先で注意を促すように軽く叩きながら、声を低めて云うのであった。
「なぜです。仮令共犯者がここへ来たとしても、何もこの女を殺すことはないじゃありませんか。単に繩を解いて連れ去ればすむことではありませんか」
博士は彼の優れた商売敵を、嘲笑うかのような口吻であった。
「しかし、彼としては、我々の常識では判断の出来ない深い事情があったのかも知れませんよ。