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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
では、明智はもろくも撃ち倒されたのか?
だが、不思議なことに、明智は何の異状もなく、元の場所に突立ったまま、ニコニコと笑っていた。
「ハハハ……、そのピストルからは、鉛の玉は飛び出さないようだね。どうしたんだね。サア、もう一度やって見給え」
山本始は、それを聞くと、あせってまた狙いを定め、引金を引いた。しかし、今度も弾丸は飛び出さないのだ。
「ハハハ……、よし給え、いくらやったって、引金の音がするばかりだ。君は今夜はひどく興奮していたので、僕の小手先の早業に気づかなかったのだよ。そのピストルの弾丸は、さい前僕がすっかり抜いて置いたのだ。見給え、これだ」
明智はそう云って、ポケットから取出した幾つかのピストルの弾丸を手の平の上で、コロコロと転がして見せた。兇悪な犯人を捉える際には、常に用いる彼の常套手段である。
「兄さん、いよいよ最期です。早く、あれを、あれを……」
突如として劈くような金切声が響き渡ったかと思うと、黒衣の京子が、二青年の手を振り払い、後手に縛られたまま、髪振り乱して、兄の側へ駈け寄った。
兄はその華奢な妹の身体を抱きしめて、
「よしッ、それじゃ今から、お父さんお母さんのお側へ行こう。