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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

艶々とした黒漆の表面に薄白く淀んでいる指紋が五倍程に拡大されて、覗き込む二人の目の前に浮上った。

「やっぱりそうだ。靴箆のと全く同じです」

小池助手が思わず声高に呟いた。

アア、又してもあのえたいの知れぬお化けの顔が現われたのだ。復讐鬼の執念は、どこまでも離れようとはしないのだ。

「この会葬者の中に、あいつがまぎれ込んでいるんじゃないでしょうか。なんだか、すぐ身辺にあいつがいるような気がして仕方がありません」

小池助手はキョロキョロと、あたりの人群を見廻しながら、青ざめた顔で囁いた。

「そうかも知れない。だが、あいつがこの中に混っているとしても、僕等には迚も見分けられやしないよ。まさかあの目印になる黒眼鏡なんかかけてはいないだろうからね。それに、この指紋は、車がここへ来るまでに着いたと考える方が自然だ。そうだとすると、迚も調べはつきやしないよ。街路で信号待ちの停車をしている間に、自転車乗りの小僧が、うしろから手を触れることだって、度々あるだろうし、誰にも見とがめられぬように、ここへ指紋をつけることなど、訳はないんだからね」

「そう云えばそうですね。しかし、あいつ何の為に、こんなところへ指紋をつけたんでしょう。