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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

と思うと、俄かに恥かしく、そんな際ながら、つい鏡の前に腰かけて見ないではいられなかった。

鏡に顔を近寄せて、よく見ると、それはただの汚れではなくて、何か人の指の痕らしく、細かい指紋が、まるで黒いインキで印刷でもしたように、クッキリと浮き上っていた。

「マア、こんなにハッキリと指の痕がつくなんて、妙だわ」

と思いながら、つくづくその指紋を眺め入っている内に、妙子さんの顔は、見る見る青ざめて行った。唇からは全く血の気が失せ、二重瞼の両眼が、飛び出すのではないかと見開かれた。そして「アアア……」という、訳の分らぬ甲高い悲鳴を上げたかと思うと、彼女はそのまま、椅子からくずれ落ちて、絨毯の上に倒れ伏してしまった。

その指紋には、三つの渦がお化けのように笑っていたのである。復讐鬼の恐るべき三重渦状紋は、遂に人の顔にまで、そのいやらしい呪いの紋を現わしたのである。

妙子さんの部屋からの、ただならぬ叫び声に、人々が駈けつけて見ると、彼女は気を失って倒れていた。そして、その頬には、まだ拭われもせず、悪魔の紋章がまざまざと浮上っていたのである。

だが、騒ぎはそればかりではなかった。