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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

は預って置いた鍵を取出して、ドアに締りをした。

夜が更けるに従って、邸内は墓場のように静まり返って行った。町の騒音ももう聞えては来なかった。女中達も寝静まった様子である。

宗像博士は、強い葉巻煙草をふかしながら、安楽椅子に沈み込んで、ギロギロと、鋭い目を光らしていた。庭では小池助手が、これも煙草を吸いつつ、椅子にかけたり、椅子の前を歩哨のように行きつ戻りつしたり、睡気を追っぱらうのに一生懸命であった。

十二時、一時、二時、三時、長い長い夜が更けて、そして、夜が明けて行った。

午前五時、廊下の窓に清々しい朝の光がさしはじめると、宗像博士は安楽椅子からヌッと立上って、大きな伸びをした。とうとう何事もなかったらしい。流石の復讐鬼も、二重三重の警戒陣に辟易して、第二幕目の開幕を延期したものらしい。

博士はドアに近づくと、軽くノックしながら川手氏に声をかけた。

「もう夜が明けましたよ。とうとう奴は来なかったじゃありませんか」

返事がないので、今度は少し強くノックして、川手氏を呼んだ。それでも返事がない。

「おかしいぞ」

博士は冗談のように呟きながら、手早く鍵を取出し、それでドアを開けて、室内に入って行った。