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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

すると、アアこれはどうしたというのだ。川手氏は長椅子に横たわったまま、身体中をグルグル巻きにされて、固く長椅子に縛りつけられていた。その上、口には厳重な猿轡だ。

博士はいきなり飛びついて行って、先ず猿轡をはずし、川手氏の身体をゆすぶりながら叫んだ。

「ど、どうしたんです。いつの間に、誰が、こんな目に合せたのです。そして、お嬢さんは?」

川手氏は絶望の余り、物を云う力もなかった。ただ目で次の間をさし示すばかりだ。

博士はその方を振り返った。間のドアが開いたままになっているので、妙子さんのベッドがよく見える。だが、そのベッドの上には、誰も寝てはいないのだ。

博士は寝室へ駈け込んで行った。余程慌てていたと見え、大きな音を立てて椅子の倒れるのが聞えた。

「お嬢さん、お嬢さん…………」

だが、いない人が答える筈はない。寝室は全くの空っぽだったのである。

博士は青ざめた顔で再び控えの間に戻って来た。そして手早く川手氏の縛めを解くと、

「一体これはどうしたというのです」

と叱責するように訊ねた。

「何が何だか少しも分りません。ウトウトと眠ったかとおもうと、突然息苦しくなったのです。