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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
「オヤ、変な見世物だねえ。五十銭の入場料で、五円の賞金を出していたんじゃ、興行主は損ばかりしていなけれゃなるまい」
博士が思わず独言のように云うと、群衆の中の一人の老人が、それを聞きつけて、話しかけた。
「それが、そうじゃねえんですよ。座元は丸儲けでさあ。ホラ、ごらんなさい。入口からああしてゾロゾロ見物が出て来るでしょう。みんな中途で引返すんでさあ。
あっしゃ、昨日から気をつけて見ているんだが、無事に出口まで辿りついた客は一人もねえ。よっぽどおっかない仕掛けがあるんですぜ。中途で引返した人の話じゃ、中は八幡の藪知らずで、どこをどう歩いていいかさっぱり見当がつかない上に、全く思いもかけないところから、ヒョイヒョイとおっそろしい化物や幽霊が飛び出して来る。イヤ、化物ばかりならいいんだが、もっと気味の悪いものがあるって云いますよ。死人ですよ。汽車に轢かれて、手足がバラバラになって転がっているんだとか、胸を抉られて、空を掴んで、口から血をタラタラと流して、今息を引取ろうとしているんだとか、怖いよりも胸が悪くなって、迚も見ちゃいられねえっていうんです」
江戸っ子らしい老人は、ひどく話好きと見えて、聞きもしないのに、ベラベラと喋るのだ。