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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
千人の宗像博士
博士を追って中へ入ろうと、押しこころみたが、どうしたことか、ドアは誰かがおさえてでもいるように、びくとも動かない。
「先生、戸が開かなくなってしまいました。そちらから開きませんか」
その声がドアを漏れて幽かに聞えて来たが、博士の方ではそれどころではなかった。真暗闇から突然太陽のような光の中へ放り出されて、クラクラと眩暈がしそうになっていたのだ。
何かしらギラギラと目を射る、非常な明るさであった。暫らくは闇と光との転換の余りの激しさに、網膜が麻痺したようになって、何が何だか少しも分らなかったが、靄が薄れて行くように、目の前のギラギラした後光みたいなものが消えて行くと、その向うに、目を大きく見開いて、口を開け、だらしのない恰好で立っている一人の男が現われて来た。
「オヤッ、あれは俺じゃないか」
ギョッとして見直すと、その男はもう他所行きの取りすました顔になっていたが、眼鏡といい、口髭といい、三角の顎髯といい、モーニングといい、宗像博士自身と一分一厘も、違わない男であった。
千人の宗像博士
何だか魔法にかけられたような、それとも気でも狂ったのじゃないかと怪しまれるような、一種異様の心持であった。