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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

しかも、それらの鏡は、必ずしも平面鏡ばかりではなかった。ある部分は先にも記したように、実物を五倍に見せる円形の凹面鏡になっていた。またある部分は、鏡の面が複雑な波形をしていて、人の姿を一丈に引き伸ばしたり、二尺に縮めたりして見せた。そして、それらの雑多の影が六角の各々の面に互に反射し合って、一人の姿が六人になり、十二人になり、二十四人になり、四十八人になり、じっと鏡の奥を覗くと、遙かの遙かの薄暗くなった彼方まで、恐らくは何百という影を重ねて映っているのだ。それを六倍すれば何千人、更にその上に、天井と床とが、また各々に反射し合い、方々の壁に影を投げるのである。

博士はそういう鏡の部屋というものを、想像したことはあった。しかし、これ程よく出来た鏡の箱に、ただ一人とじこめられたのは、全く初めての経験なのだ。世間を知りつくし、物に動ぜぬ法医学者も、このすさまじい光景には、理窟ぬきに、赤ん坊のような驚異を感じないではいられなかった。

博士が笑えば、千の顔が同時に笑うのだ。しかも、それらの中には、五倍の大入道の顔、胡瓜のような長っ細い顔、南瓜のように平べったい顔なども、幾十となく交っている。