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あくまのもんしょう

悪魔の紋章

江戸川 乱歩

「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页

青空文庫

「イイエ、僕は一歩もこの部屋を出ませんでした。誰も来たものなぞありません。どうかしたのですか。その封筒は確かに木島君が内ポケットから出して、そこへ置いたままなんです」

「見給え、これだ」

博士は用箋を中村係長と小池助手の前に差出して、パラパラとめくって見せたが、不思議なことに、それはただの白紙の束に過ぎなかった。文字なぞ一字も書いてはないのだ。

「変だなア、まさか木島君が、白紙を封筒に入れて、大切そうに持って来る訳はないが」

中村氏が、狐につままれたような顔をした。

宗像博士は、唇を噛んで暫く黙っていたが、突然、白紙の束を紙屑籠に投げ入れると、決定的な口調で云った。

「小池君、すぐアトランチスへ行って、木島君が用紙と封筒を借りたあとで、誰かと話をしなかったか、同じテーブルに胡乱な奴がいなかったか調べてくれ給え。そいつが犯人か、少くとも犯人の相棒に違いない。木島君の油断している隙に、報告書の入った封筒と、この白紙の封筒とすり換えたんだ。毒を飲ませたのも、同じ奴かも知れない。出来るだけ詳細に調べてくれ給え」

「承知しました。しかし、もう一つ、木島君が持って来たものがあるんです。