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あくまのもんしょう
悪魔の紋章
江戸川 乱歩
「日の出」新潮社、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 151,280 字 · 301 页
顔の小皺の一本まで、生けるが如き生々しさ。生人形とはよくも名づけたものである。
轢死者の首は、美しい眉をしかめ、口を苦悶にゆがめて、じっと目を閉じていた。アア、何という生々しさ。今汽車が通過したばかり、そして、レールからコロコロと転がって来て、そこへ据わったばかりという心持を、どんな名画も及ばぬ巧みさで描き出していた。まだ反動が鎮まらないで、生首はユラユラと揺れているかとさえ疑われた。
「先生、先生」
小池助手が青ざめた顔で、乾いた唇で、強く囁きながら、博士の腕を捉えた。
「先生、僕の目がどうかしているんでしょうか。よくこの首を見て下さい。こんな人形ってあるでしょうか。若しや……」
あとは口に出すのも恐ろしいように、云い渋った。
「妙子さんではないかというのだろう。僕もそれに注意しているんだが、少しも似ていないよ。生顔と死顔とは相好が変るものだと云っても、こんなに違う筈はないよ」
「そういえば、そうですね。しかし、僕はなんだか、本当の人間の首のような気がして……」
小池助手がそこまで囁いた時であった。まるで、その言葉を裏書でもするように、生人形の首が、パッチリと目を見開いたのである。