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じょうき

情鬼

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,393 字 · 35 页

青空文庫

「じゃ何かお考えがあって、特に目をかけていらしたというようなことはございませんか、譬えばあなたとご結婚でもおさせしようとか――」

久子さんはびっくりしたようだった。

「いいえ。そんな事は決してございません。兄は吉岡さんと私とが接近するのさえ余り好みません位でしたから」

「吉岡さんはどこに住んでいらしたんです?」

「宅の離室をお貸して上げていました。こんどの兄の滞在は余り長くない予定でございましたので――」

「お兄様が日光でお亡くなりになりましたのはたしか午前二時だったと思いますが、その当日やはり吉岡さんはお兄様とご一緒に日光においでになったのではありませんか?」

「いいえ一緒ではございませんでした。そしてあの方が外出先から帰っていらしたのは夜分の十一時頃だったと思いますの。忘れもしませんが、あの晩吉岡さんは非道い胃痙攣を起して大騒ぎいたしました。それからずッとお体が悪るくって、兄の告別式にさえお出になられませんでしたの」

「只今でもお音信がございますか?」

「もうさっぱり――」

「いつ頃あちらへ帰られました?」

「兄の告別式がすんだ翌日でございます。もともとあちらから連れて来た人なんですから」