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かいていごじょうほう

改訂御定法

山本 周五郎

「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,422 字 · 58 页

青空文庫

「持っていって下さい」と直衛は相手の言葉を遮って云った、「借は借です」

矢堂は黙って両手をおろした。その姿をじっと見てから、直衛は「失礼」と云って立ちあがった。――矢堂玄蕃はそのまま、居間へ戻ると誰もいなかったが、直衛が手酌で二つ飲むと、佳奈が燗徳利を盆にのせてはいって来た。

「持参金だなんて」と佳奈は酌をしながらやさしくにらんだ、「――本当のことを仰しゃって下さればいいのに」

「立聞きは無作法だぞ」

「ずっと安心いたしました」と佳奈は云った、「わたくしのはべつとして百八十両あまり、こんなに御内福とは存じませんでしたわ」

「あさはかだな」直衛は酒を啜って、一種のめくばせをした、「あれは借りた金だよ」

佳奈はけげんそうな眼をした。

「持参金の話のときさ」と直衛は微笑しながら盃をあげた、「――かな公が帰ってから、難波の亭主を云いくるめたんだ」

「嘘ばっかり」と佳奈が云った、「噂では吝嗇なことで有名だというじゃございませんの」

「ものは使いようさ、良薬は毒から作るというくらいのものだ」

「本当に難波からお借りになったんですか」

「五年がけでね」と云って直衛はそっぽを向いた、「あとはかな公に頼むよ」