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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

とある辺りの情景は、まさにそのときの情景を描いて躍如たるものがある。

由来、秀吉といえば、智策に富み、攻城野戦にも、多くは敢えて戦わず、これを謀収する計に出で、また自身勇戦をなすは甚だ得意でもない人であると見られているが、必ずしも、彼が勇将でないという確証はどこにもない。

彼はただ、能うかぎり兵を損ぜず、無血の戦果と最大の戦果を希っているに過ぎないのだ。青年将校時代すでに、箕作城の激戦には、味方に先がけて身に数ヵ所の手傷を負うほどな勇気を衆に示している。彼に、摩利支天の一面がないとは決していわれまい。

わけて、山崎の一戦には、

(大将と大将との太刀打ちにて勝敗を決せん)

と、光秀へ云い送り、また、その場に臨んでは、

――味方ノ鑓ノ石突モ働カザル程、御馬印ノ瓢ヲ御詰カケナサレ

とあるを見ても、いかにこのときの彼の形相が、見敵必殺の意気に燃えていたかがわかる。

きょうこの時の彼の戦法は、あだかも永禄の頃、越後の上杉謙信が、敵信玄の陣域深くへ基地を取って、一鞭、妻女山から川中島の敵幕中へ突入した――あの捨身不退の構えにも似ている。

何で、この前に立ちふさがり得る敵があろうか。