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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
08 第八分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页
「げッ」
――仰天して、
「ど、どこに?」
「三十郎。お館はここにいらっしゃる」
茂朝は、馬の鞍覆に包んで抱えていた光秀の首級を彼に示し、暗然と面をそむけた。
「おおッ」
と、彼は烈しい勢いでそれへ跳びついた。主人の首級にむしゃぶりつくや否、おいおい声をあげて慟哭した。
「さいごのおことばは」
「順逆無二門――の一偈であった」
「順逆無二門――と仰っしゃいましたか」
「たとえ、信長は討つとも、順逆に問わるるいわれはない。彼も我もひとしき武門。武門の上に仰ぎ畏むはただお一方のほかあろうや。その大道はわが心源にあること。知るものはやがて知ろう。――とはいえ五十五年の夢、醒むれば我も世俗の毀誉褒貶に洩れるものではなかった。しかしその毀誉褒貶をなす者もまた一元に帰せざるを得まい。……そんな御鬱懐を吐かれて御自刃遊ばした」
「わかります。……わかります」
――三十郎はしゃくり上げながら、拳で顔じゅうの涙をこすった。
「戦巧者な斎藤どのの諫めもお用いなく、みすみす不利な地形と寡兵をもって、山崎に決戦を辞さなかったのも、その大道に拠られたためです。山崎を退いては京都を捨てることになるからです。