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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

08 第八分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,758 字 · 383 页

青空文庫

「まかせる。よいように計ろうておけ」

秀吉は直ちに、陣後に伴っていた毛利方の人質、吉川経言と毛利元総のふたりを、彼の手にゆだねて、先へ立った。

いまや彼の心は、矢のように急がれていた。一日遅れれば一日味方の不利である。それだけ明智の軍容は強化され、光秀の横奪した天下を天下にゆるしておくことにもなる。

本軍と別れた秀吉は、ここから馬をすてて輿へ移った。なるべく疲労を少なくするためである。そして、麾下の将士と共に矢坂、野殿、野田を経、半田山までくると、さきに引き揚げていた宇喜多主従が、岡山から迎えに出ていた。

秀吉は陣輿を停めさせた。

そして、宇喜多忠家以下、出迎えに来ていた岡山衆へたいして、

「やあ。大儀大儀」

と、洩れなく愛想をこぼし、またふと、諸士の中に囲まれている一少年の姿に目をとめて、

「お出で。お出で」

と、さしまねいた。

忠家は少年の手をひいて、陣輿の側へひざまずき、

「ごあいさつ遊ばせ」

と、教えた。

少年は礼をした。蘭の新芽の如く素直である。まだ童髪で、武者人形のように化粧されていた。

「忠家、これか。――亡き直家どのの孤子は」

「はい。直家同様に、行く末とも、お引き立て下しおかれますように」