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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
ところが、酬いか。怖ろしいのは宿命である。
彼が奪って自分のものとした――主人土岐氏の妾が生んだ子は、今の新九郎義龍で、道三秀龍は、多年、それが自分の実の子か、主人土岐氏の子か、悩んでいた。
子は長じて行き、彼は老いてゆく。悩みは、深くなる。
すでにその義龍は、身長六尺余り、膝長一尺二寸という堂々たる青年となり、稲葉山城の主君として君臨し、道三は、長良川向うの鷺山の城へ、隠居の身とはなっている。
鷺山と稲葉山と、川を隔てて、業のふかい宿命の父子は、今や睨みあっていた。――時めく義龍は、やがて自分の素姓を悟るに及んで道三を怨み、道三をないがしろにした。老いゆく道三は、義龍を疑い、義龍を呪い、遂には義龍を廃嫡して、二男の孫四郎を立てようと計った。
だが、その企ては、義龍のほうで逸はやく知ってしまった。
義龍は、癩病で「癩殿」と蔭口をいわれたりしているが、宿命の子だけに、性格はつむじ曲りで、智謀も勇もある。
(その儀ならば)
と、鷺山へ向って、防寨を堅固にし、一戦をも辞していない。
道三のほうでも、勿論、
(あの癩殿を除かねば)
と、浅ましくも、おのが五体に等しい義龍に向って、いつでも、流す血を覚悟している。