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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
「はははは。鷺でも烏でもなくて猿だったか」
「口達者な猿で、物を質すと、あべこべに、おぬしは何者だなどと大言を吐きますから――当地の御被官、松下嘉兵衛様でいらせられると、申し聞かせましたところ、ふーむと、怖れ気もなく腰を伸し、此方を無遠慮に見ておりました」
「そして、畦に屈んで、何を一体しておったのか」
「それも、質しましたところ、馬込の木賃に泊るので、晩の飯の菜に、田螺を採っているのだ――という返辞にござりました」
馬上のまま、能八の復命を聞いている間に、松下嘉兵衛が、ふと眼を移すと、その針売りの後ろ姿は、田の畦から街道へ上がって、もう先の方へ歩いて行く。
嘉兵衛は、それに眼を止めながら、また、能八へいった。
「では何も、不審なかどはない者だの」
「べつに、怪しい節も見うけられませぬ」
「そうか」
と、手綱を持ち直し、
「下賤の者らに、些細な無礼咎めなどはなるべくするな。さ、参ろう」
と、他の郎党へも、鞍の上から顋をすくう。
駒の脚は、やや早目――
またたく間に先へ歩いている日吉に近づき、彼の側を、埃をたてて駈け抜けた。
(猿に似た小男)
と、さっき能八郎から聞いていたので、松下嘉兵衛は、何げなく振り向いた。