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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

日頃、日吉を、何かと目触りにして、憎悪していた若侍の二、三名が、稽古槍を持って、そこを通りかけた。

「猿だな」

足を止めて、

「よく眠っておるわ」

と、呟いた。

「どうだ、この寝顔の、横着そうな面は。――それでいて、お奥向や殿には、猿々と、至って気受けがよい。こういう態を、ご承知なさらぬからだ」

「起してやれ。すこし油をしぼってやろう」

「どうするのだ」

「猿ばかりは、まだ一度も、武芸の稽古をしておらんじゃないか」

「日頃、憎まれているのを、自分でも知っているせいだろう。撲られるのを怖れて、どうしても、稽古せぬそうだ」

「それがいかん。およそ武家の奉公人たる者は、門番、お台所の末の者まで、必ず武芸を励むべし――とあるのは、御当家の御家憲だ」

「おれにいっても仕方がない。猿にいえ、猿に」

「だから起して稽古場へ、引っ張って行こうと思うが」

「うむ。おもしろい」

「よかろう」

一人が、稽古槍の先で、日吉の肩の辺りを、とんと突いた。

「こらッ」

それでも、眼を醒さないので、

「起きろッ」

一人はまた、足を掬った。

日吉は、梧桐の幹から、背を横へ辷らして、びっくりした眼をひらいた。