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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
「そうして、会いたいのは、山々ですが、家を出る時、一かどの男にならなければ帰らないと、誓った言葉がありますから――それに、義父にはなおさら、今の姿では会えません」
今の姿――と、いう日吉のことばに、乙若はもう一遍、彼の身装を見直した。
白木綿が、鼠木綿と紛うほど、埃と雨露に汚れていた。油気のない髪、日焦に痩落ちている頬、どことなく、志を得ない人間の疲れと困憊が纒っていた。
「何をして喰っているのだ。この頃は」
「針売りをしていました」
「針売り」
「はい」
「奉公したのじゃないのか」
「二、三軒、武家の端くれみたいな家へ、勤めてみましたが」
「相変らず、すぐに飽きてしまうのだろう。もう幾歳になった」
「十八でございます」
「鈍に生れついた性分なら仕方がないようなものの、阿呆もいい加減にしろ、いい加減に。――馬鹿には馬鹿なりの辛抱づよいところがあるものだが、貴様ときたひには、その辛抱もない。これじゃあ、おふくろが嘆くのも、養父が持て余すのも、むりはねえや。……猿、いったい貴様あ、何になるつもりなんだ」
腑がいなさに、乙若はつい、久しぶりに会った日吉を、会う早々、叱ったり、罵ったりしたものの、心のうちでは、多分に、同情をもっていた。