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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

富田ノ庄は、家々豊かだった。荒土ながら、穀倉のある家が多い。平和な真昼の籬に卯の花がうなだれていた。

「来た」

「見えた」

村端れまで出ていた斎藤方の小侍が二人、遥かに行列の先頭を見るや否、どこかへ宙を飛んで行った。

村を貫いている欅並木に雀のさえずりが、長閑だった。

その路傍の、小やかな一軒――土民の家の前に、小侍二人は、ひざまずいて云った。

「織田どののお列彼方に見えました。やがてもう、これへさしかかるでございましょう」

民家の土間には、そこの薄ぐらい煤だらけな壁とは、余りにもふさわしくない、綺羅びやかな太刀、袴羽織の人々が、一群になって、潜んでいた。

「よし。――そち達も、はやく裏藪へ身をかくせ」

道三秀龍の側衆たちである。――奥には――いや炉部屋の側の竹窓がある小さい部屋には、その道三秀龍が、窓べりに凭れて、往来のほうを見まもっているのだった。

初めて会う聟どの。

しかも、いろいろな風評の高い上総介信長。

「いったい、どんな態たらくで参るか、どんな男か、公式に対面する前に、ちょっと垣間みたい」

という道三らしい考えから、路傍の民家にかくれて、先刻から待ちぬいていたのだった。