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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

いつも置き捨てをくう近侍たちは、また不覚を重ねぬように、帰りは信長に続いていたが、小者の中の、がんまくと藤吉郎のふたりだけが、かなり遅れて、後から駈けて行った。

「がんまく」

「おう」

「よかったな」

「よかった」

遅れはしたが――しかし二人は不覚とはしなかった。嬉々として、主君の姿を、先に見ながら急いでいた。

もし何らかの、兇事でも起った場合は、すぐ清洲城へ変を知らせて――と、二人は密かに諜し合わせ、二の丸の狼煙山へ上って、いざとあれば、狼煙番を斬り殺した上、そこから煙を上げる考えだったのである。

名塚の砦は、信長の手足の一部である。一族の佐久間大学に守らせてある。

その年の八月だった。

まだ夜も明けぬ頃。――初秋の眠りごこちを、砦の者は、不意の軍馬に驚かされて刎ね起きた。

敵は? ――意外にも日頃の味方だった。

「那古屋衆の、謀叛と見ゆるぞ。柴田権六の兵千人。林美作の人数七百ばかり。――不意を襲せて来おった!」

物見やぐらで、誰かどなった。それすら、深い霧の中である。

ここは手薄。

一騎、二騎、霧を衝いて、すぐ清洲の本城へ、知らせに飛ぶ。

信長は、まだ眠っていた。