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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
01 第一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页
藤吉郎は、いずれ充分、わがままなお願いに出るでしょう、とあらかじめ頼んで、門を出た。
すると、奥方は、自身わざわざ門の外まで出て来て、二人の中間を呼び、
「新規に、お厩方へ変って来られた、木下藤吉郎様じゃ。あの、桐畑の空屋敷へ、近いうちお移りになるそうな。――ちょっと、御案内して、お前方の手空の時、お掃除などしておいてお上げなさい」
と、いいつけてくれた。
で――藤吉郎は、中間に案内されて、これからのわが家になる官舎へ行ってみた。
想像以上、大きい家なので、
「ほう……これは立派な家だ」
と、門へ向って呟いた。
聞けば、前には、小森式部という者が住んでいたとか。それも大分前のことらしく、屋敷は荒れているが、しかし、彼の眼には大きく立派に見えてならなかった。
「裏は、桐畑でござるな。これも何やら吉兆でござる。てまえ木下家の紋が、先祖以来、桐を用いておりますからな」
確とした記憶はないが――彼は何だかそんな気がしたのである。父弥右衛門の持っていた古い鎧櫃か、短刀の鞘だかに、そんな紋を見た気がするので、案内してくれた中間に向って、ともかくそういってしまった。