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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

01 第一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,256 字 · 361 页

青空文庫

けれど……そうだね、今着ている着物をくれてやって、塩の二升も施しておやり」

於福は、自分一人で云い渡すのは、何だか日吉に対して不気味な気がしたので、ほかの雇人を連れて、一緒に外の陶器蔵へ歩いて行った。

蔵の中を覗いて、

「小猿。いるかい」

呼ぶと、頭から藁ゴミをかぶって働いていた日吉は、

「はい。何ですか」

いつもより元気な返辞をして飛び出して来た。

人にいってはよくないと考えたから、誰にも話していないが、ゆうべのことは、彼自身で、心のうちに、得意に思っていたのである。きっと今に主人から、改めて、賞めてくれるにちがいないと、密かに待っていたほどだった。

於福のそばには、雇人のうちでも、腕ぶしの強い――日吉がふだん一番怖れている手代が、突っ立っていた。

「小猿」

「へ?」

「おまえな。もう今日から、帰ってもいいよ」

於福のことばだった。

日吉は、怪訝な眼をして、

「どこへです?」

「どこって、自分の家へさ。――家はあるんだろ。今でも」

「家はあるけれど……?」

何故? ――と日吉が云い出さないうちに、於福は、云いかぶせた。

「きょう限り、お暇が出たんだ。今、着ている着物はくれてやるから、すぐ出ておいで」