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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页
た。と、物干竿のことも二人が媾曳の合図にしたことのような気になって来た。
「もし、もし、もし、もし」
外の女の温かな唇が見えるように思われた。どうしても夫の隠し女であると女房は思いだした。彼女はそっと起きて奥の便所へ往く方の縁側の雨戸を開けた。月の隠れた狭い庭に冷たい風が動いていた。彼女は裸足で家の東側を通って表庭へ往ってそっと簷下を覗いて見た。其処には何人(たれ)もいなかった。彼女は庭を横切って竹垣に沿うて玄関の方へ眼をやった。色の白い痩ぎすな女が雨戸にくっつくようにして立っているのがぼんやり見えた。たしかに夫の隠し女である。女房の眼は嫉妬に輝いた。彼女は耳門戸(くぐり)をつと開けた。女は跫音に驚いたように雨戸を離れた。赤い※(きれい)な帯の端が女房の眼についた。
「どなたでございます」
女房は憎むべき女の顔を覗き込んだ。細面の眼の水みずした女(むすめ)であった。
「……私は、私は」
女の声は顫えた。
「どなた様でございます、何か私共へ御用でございましょうか」
女房は厚顔(あつかま)しい女を思うさま恥かしめてやろうと思った。
「御主人は、お出でになりましょうか」