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ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页

青空文庫

女はおずおずと云いだした。

「主人は留守でございますが、御用なら私が承っておきましょう」

「御主人にお目にかかりたいと思うてまいりましたが、お留守なればまたまいります」

「主人に何の御用でございましょう、そして、貴女はどなた様でございます」

「私は、あのなんでございますが、御主人にお目にかかってから、申しあげます」

「そうでございますか、この夜更けに、お壮い御婦人が、よく、まあ、こんな処へ、お出でになりました」

女房は嘲笑った。

「是非お目にかかって、お願い申したいことがありまして、それでは、またまいります」

「そうでございますか、それでは、また主人のおる時に、お出でなさいませ」

女房は睨むように女の顔を見た。女は小声で何か云いながら頭をさげて門の方へ歩いて往ったが、左側の木立の傍へ寄ったかと思うともう見えなくなった。女房は不審して見ていたが、女の姿が見えなくなったのに安心してそっと引返した。

益之助は先刻の枕のままで眠っていた。女房は己(じぶん)に秘密を知られたので狸寝入りをしていはしないかと思って、冷笑を浮べてその顔を見ていたが、益之助は何事も知らない容(ふう)で何時までも穏かな鼻息をしていた。