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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页
朝になって女房は夫がどんな顔をするであろうかと思って、時どき意味ありそうにその顔を見詰めたが、夫はしらを切っているのか、別に何とも思わないような顔をしていた。
「あなたは、昨夜(ゆうべ)、よくお寝みになれましたか」
こんなことを云っても夫は平常(ふだん)と同じような態度で、落ちつきのある返事をしながら旨そうに飯を喫(く)った。
「昨夜は、物干竿の音もしませんでしたね」
「昨夜は、やらなかったようだな」
益之助は平常(ふだん)のようにして出て往った。女房は未だ疑念が晴れなかった。
その夜はもう二人の口に物干竿のことは登らなかった。やがて寝床に入ったところで益之助は直ぐ眠ってしまったが、女房の方はまた今晩も前夜の女(むすめ)が来やしないかと云う嫉妬に駆られているので眼が冴えるばかりであった。その晩はすこし風があって庭木の枝葉のざあざあと靡いているのが聞えた。
「もし、もし、もし」
昨夜(ゆうべ)と同じような女の声が玄関の方でしはじめた。女房は又来たのかと憤りながら、そっと昨夜の処から出て往った。そして、竹垣に沿うて覗いて見た。果して前夜の女の姿が暗い中に見えている。