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ぎじんのすがた

日本の怪談

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页

青空文庫

「や、これはどうも」

と、ちょっと頭をさげて二足三足歩いてから用人に話しかけた。

「貴君(あなた)は、これから何方(どちら)へ往きなさる」

「下総の方へ、ね」

「ああ、下総」

「貴僧(あなた)は何方へ」

「私(わし)は越谷(こしがや)へ往こうと思ってな」

「何処からお出でになりました」

「私(わし)かね、私は番町の――の邸から来たものだ」

用人は驚いて眼を※(みは)った。旅僧の来たと云う邸は己の仕えている邸ではないか、用人はこの売僧奴(まいすめ)、その邸から来た者が眼の前にいるに好くもそんな出まかせが云えたものだ、しかし待てよ、此奴はなにかためにするところがあって、主家の名を騙(かた)っているかも判らない、一つぎゅうと云う眼に逢わして置かないと、どんなことをして主家へ迷惑をかけるかも判らないと心で嘲笑って、その顔をじろりと見た。

「――の邸、おかしなことを聞くもんだね」

「何かありますかな」

旅僧は澄まして云って用人の顔を見返した。

「ありますとも、私はその邸の者だが、お前さんに見覚えがないからね」

用人は嘲ってその驚く顔を見ようとしたが旅僧は平気であった。

「見覚えがないかも判らないよ」