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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页
は、隙を見て妻を訪(おとな)おうと心窃(ひそか)に喜んでいるところであった。彼は手にしている鉄扇を執り落そうとして気が注(つ)いた。
女は澄ましてその前に来て静に茶を置いた。面長な濃艶な頬から鼻にかけて生なまとした見覚えがあったが、女が余り澄ましているので、もしや人違ではないかと思ってかけようとした詞(ことば)を抑えた。女は両手を突いてうやうやしく俯向いた。白いその首筋から細そりした肩のあたりにも見覚えがあった。右の耳の下には何時も見ている小さな黒子(ほくろ)さえあった。
「お前さんは、お高じゃないか」
女は顔をあげたが冷やかな顔をしていた。
「そうではありません」
飯田は不審でたまらなかった。
「お前さんは、私の顔に見覚えはないのか」
「ありません」
こう云って女はぶ鬼魅(きみ)そうにして、そそくさと出て往った。飯田は呆然としてその後を見送っていた。
厨の方が急に騒がしくなった。飯田は気が注いて隻手(かたて)を刀にかけた。と、慌しい跫音がして部下の一人が草鞋のまま飛んで来た。
「厨の隅に生血の附いた脚絆があったから、坊主を押えて詮議しようとすると、坊主が逃げ出したから、押えて縄をかけました」