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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談』。同一底本的分册已合并为一书。收入:義人の姿、宝蔵の短刀、村の怪談、猫の踊、幽霊の自筆、狐の手帳、貧乏神物語、怪僧、庭の怪、八人みさきの話、一緒に歩く亡霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,030 字 · 115 页
男の子は大きな声を出してわっと泣いた。泣いたと思うと、そのまま仰向けに引っくり返って動かなくなった。乳母が驚いて大声をだすと、後の方にいた二人の婢も驚いて走って来た。
「水を、水を」
乳母は男の子を抱きあげて縁側の方へ走った。婢は狼狽(うろた)えて庭を彼方此方と走った。
「若様が大変じゃ、若様が大変じゃ」
乳母が縁側をあがろうとしていると、男の子は呼吸(いき)を吹き返して泣きだした。
怪しい老女の姿はもう庭に見えなかった。男の子はそのまま病気になってしまった。不思議な病気であるから久武の邸では、寺から僧を招んで来て祈祷をしてもらった。僧は小供の枕頭に坐って小声でお経を唱えていた。
小供は急に起きあがって座敷の中を走りだした。
「悪人を生け置いてたまるか、悪人は生け置かんぞ」
そして、また引っくり返って手足をびくびくと動かしだした。僧は一生懸命になってお経を唱えた。僧の顔には汗が出ていた。
「悪人を生け置いてたまるか、悪人は生け置かんぞ」
小供はまたこう叫びながら、体を悶掻(もが)いて畳の上を転げ廻った。
「悪人を生け置いてたまるか、悪人は生け置かんぞ」
その夜の明け方になって、小供は座敷のうちを狂い廻っているうちに、ばったり倒れたがそのまま死んでしまった。