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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

その証拠にミチ姉さんもカヤ姉さんも、嬉しげな顔して帰んだがいや、なあほら、いそいそとしてから」

冗談めかしていう実枝の言葉にクニ子も笑いだし、

「ほんまによれなあ」と、素直にそれを受け入れた。実枝は力を入れていった。

「犬も食わんもんやこい食わされなよ、姉やん」

「何ぞいや、それ」

「夫婦喧嘩よれ」

何じゃいというのを「ちゃい」とクニ子は右手で軽く叩くようなしぐさで、また一本というように実枝と目を合わした。そして、さも感に堪えぬとでもいう表情で実枝の丸い顔を眺め、

「俵ぶるいは賢いというが、実枝はほんまに何でもよう知っとるなあ」という。

「ちゃい」

今度は実枝が軽く叩いた。二人はしばらくだまっていた。むっくり起き上ったクニ子は、また肩を落したような力のない顔をして、

「ほじゃけんどなあ実枝、考えてみるとやっぱりうち、結婚はしまいと思う」

「どして」

巻きかけたゼンマイがもどけてゆくような気持で実枝は坐りなおした。

「何せ、大変なことじゃと思うと、考えただけでくたびれるのがいや」

実枝はまた上唇をかんだ。時とすると若い娘のようになったり、ひどく年とったりするクニ子の小さい顔に見入った。