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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
「茶が飲みたくても自分の家では女房のしまがじょたじょたしながら茶釜の首まで水を入れて火床の前にでんと腰を据えて炊きつける。一寸の間尺には合わない。おこうが茶を炊きゃ、ぱっと燃えたらしゅんと沸く」
そういっていねの父親は若い後家さんのおこうに惹かれたわけを人に話したという。その善悪はともかくとして、いねは何か父親の気持にわかるものがあるように思えた。いねの二人の兄は皆母親贔屓で、単純でことに正義派の長兄は両親が死んだあとまで露骨にそれを現した。いねに三人目の子供ができかかっている時にその母親は死んだ。普通この辺では夫婦は一つの石碑にその名を並べて刻みこむのであったが、例の単純な兄は両親の石碑を別々に作った。それは父親が死んだ時からの計画であったらしく、父親の石碑は家柄に不似合な小さいもので、石碑の真中に戒名が刻んであった。その倍ほどもある母親の石碑は鏡のように磨かれていて、影が映った。碑の裏には郡長の筆になるという達者な文字で故人の来歴がことごとしく刻まれ、賢夫人として夫の小さい石碑の前にはだかっている。それで母親の仇を打ったように考えている兄のばか正直さがいねにはかえって恥さらしに思えるのであった。