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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
するとまた子供の一人がいう。
「叱られるもんか、お祖父さんは地獄で、お祖母さんは極楽にいるんじゃもん」
いねはもう何ともいえず笑っていた。それも兄の言葉だろうと思うと、子供らは別にいねほどの複雑な気持はもちろん持っていそうなはずはないのだが、それだけにいねの胸の中でもやつくものがあった。
そんな風ないねの係累に比べて、重吉の方はしごく簡単であった。母一人子一人の境涯は重吉が生れて間もなくのころから、いねと結婚した二十七の年まで続き、しかも若い間を働いて働きぬいて、息子が一人前の樽屋として親方を離れるまで自分で暮しを立ててきた母親のかやは同じ後家でもそうした女の持つ心のひろさが自然に備っているようなところがあった。かやは若い時夫婦養子で隣村の相当の家へ貰われていたのであった。仁左衛門というその養家は今でも立派な門倉のある家であった。後々かやのそんな昔のことが話題になったりすると、孫どもは不思議そうに訊ねる。
「お祖母、どうして仁左におらなんだん? おばあが仁左におったら、うちらはあんな大けな家の子じゃのに」
かやは大きな声で笑う。そしていう。
「おばあが気まま者でなあ、団子が腹いっぱい食いたかったり、飯を二杯で辛抱ができなんだりしたんじゃ。